概要

演芸列車東西本線さんの「鬼より怖い」を観たので感想を書いてみようと思います。ネタバレあります
作品の概要はこちらで

観劇日 2022/04/23
場所 金沢21世紀美術館 シアター21

あと、ジョキャニーニャTVでの忌憚なき感想は↓の動画の25分くらいから

感想

役者について

男4人の会話劇。父(伊藤憲二)、長男たかし(東川清文)、次男ひでつぐ(晴海圭祐)、三男しんご(西本浩明)、それぞれ個性があり、セリフや動きの端々からそのキャラクターを滲み出させていて、特に序盤の観客の理解を助けるような展開とやり取りは、スムースな導入を成功させているように思えた。スーツ、ジーパン、スウェットみたいにキャラに対応した衣装もわかりやすく、役者の個性も相まってそのキャラクター性を確立させていた

役者同士の息の合った掛け合いもあって、遺産を巡る露骨な言い争いが観客の笑いをうまく誘っていた。それぞれが個人的な理由で金目当てに過去の事とか細かいことを掘り返していく姿が面白かった。あと、次男の破天荒設定も面白かった。

役者一人一人の完成度は高く、セリフも安定していて動作も自然体だし、観ていて安心があった。最初は露骨な金沢弁に違和感があったけど、観ていくうちにすぐになれた。

四人の中で伊藤さんは、後半から主役って感じで、妻を亡くし認知症への不安を抱える心情の長セリフがすごくよかった。なんとなく喋り方に昔の父親感がよく出ていた。あと、なんか認知症の役って難しいんじゃないかと思う。咳き込むところが演技なのかそうじゃないのか分からなかった

東川さんと西本さんはユニットってこともあって完成されているし、そこにスパイス的に春海さんを加えて、楽しみつつもしっかりと芝居をしているって感じがした。テーマ的に認知症の父親の遺産を巡る話から、親子の分断からの邂逅という側面もあって、重くなりそうなところを春海さんの愉快で軽快な物言いや振る舞いがその空気を和ませているように思えた

照明について

一幕なので大きな変化はなかったけど、父親の心象風景というか、認知症の側から世の中を見た不安や恐怖みたいな感じがあって、特に父親の独白部分ではその重苦しさみたいなものがあらわされていた気がする。急に話が途切れて次のシーンに行くところとか不気味でうすら寒い感じがした

音響について

芝居の最中は派手な音はなく、どちらかというと電話だったり扉の開け閉めみたいなSEが記憶に残っている。ただし、劇中の静かさ、重さも相まって、最後の写真をもって社交ダンス風に揺れるシーン(って解釈であってるよね)で掛かる曲には強いインパクトがあった

その他

途中のシーンで役者が手で舞台を持ってずらして、舞台上に溝というか隙間ができるのがまず見た目で衝撃的で、さらに認知症のメタファーとしてもうまく意味をもたらしていたと思う。

小道具のビールや急須が全部赤色になっていて、そこに何の説明もなく進んでいったので、たまたまそういうデザインなのかなと思ったら、(多分)認知症の人は色の識別が難しくなるので、食器とかを赤色にするっていうことの示唆だったのかな、と後で気づいた

途中、認知症の人から見ると顔の識別ができないってところで、息子三人が仮面をつけて出てくるんだけど、実際そうなったらなんか怖いなって思った。よく認知症になると子供の顔も忘れるっていうけどそういうことなんだろう

時代に即したテーマがあって、設定場所の移動もなく特別な装置もなく４人でできる芝居という事で、旅公演というか、色んな場所でできるパッケージ化された公演のようにも思えた。３年間同じテーマの芝居を作っていくとのことで、この先２年も楽しみです

気になったこと

動画でも言ったけど、ちょっと長く感じてしまった。おそらく個人的なテンポの好みみたいなものだけど、テーマや劇中で起こったことの重さがあるがゆえに、作りとしてしっかりしていたからじゃないかと思う。まぁ、芝居をしっかり作りこむのは悪いことじゃないので、そこは本当に好みだと思う

ただ、別の視点として、若干物語の引きが弱いという気がした。この先の展開はどうなるんだろう、という好奇心によって、物語の中に没頭できる部分が個人的には多くあるんだけど、遺産を巡る話から父親の実状と内面、母親の死、家族の関係という部分に展開していって、先の展開が気になるという事が薄れてしまったのがまた、少し長く感じた理由なのかもしれない

あと、これは自分も話を書くので気になったところで、最後の方に母親が癌で入院していた時に父親を息子に託したってエピソードがあったけど、若干急にその事実が出てきた感があって、何らかの前情報や伏線があったほうが良かったんじゃないかと思った（もしかしたら聞き逃してるだけかも）

仮面をつけてるとき、いつも猫背だった三男がいきなり姿勢よく座っていたのはなんでだろうと思った。

好き勝手書いてすみません。気に障ったら謝ります